法人税の節約・抑制

<法人税の抑制・節約の方法>
本回答は一般的な情報提供を目的としたものであり、いかなる税務・法律上の助言を提供するものではありません。実際に法人税等の税務上の対応を検討される際には、公認会計士や税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。


以下では、日本において法人税を節約(正確には適切に削減・最適化)する主な方法や考え方を、可能な限り詳しく解説していきます。なお、税法や会計基準は時期により変更される可能性がありますので、常に最新の情報を確認することが重要です。


1. 経費の計上を適切に行う

1-1. 経費として認められる範囲を理解する

法人税を計算する上で、収益から経費を差し引いた課税所得に対して税率がかかります。したがって、課税所得を適切に抑えるためには、会社の活動に必要な費用・損金を漏れなく計上することが重要です。

  • 業務に直接関連する支出
    • 仕入れや外注費、販売促進費、広告宣伝費、人件費(給与・賞与・社会保険料負担分など)が該当します。
  • 間接的に関連する支出
    • 福利厚生費や交際費(一定範囲内)、会議費、通信費、旅費交通費なども適切に業務関連性を証明できれば経費化が可能です。

会社のお金を私的に使用してしまうと、税務調査時に損金不算入(経費として認められない)とされ、法人税の追徴課税や重加算税のリスクを負うことがあります。正当な理由・証憑書類(領収書・請求書など)の整備が大切です。

1-2. 固定資産の減価償却を適切に行う

会社が保有する建物や機械、車両などの固定資産は、取得価額を長期間にわたって経費(減価償却費)として計上します。減価償却の方法や耐用年数の設定は税法上細かく定められており、定率法から定額法への変更など、制度改正が行われることもあります。

  • 定額法と定率法の使い分け
    多くの場合、耐用年数を守りつつ定率法の方が初期費用を大きく計上でき、早期に経費を大きく計上できる可能性があります。ただし、税制の改正や自社の利益状況との兼ね合いも大切なので、事前に試算や税理士との相談が必要です。
  • 一括償却資産の活用
    一定金額未満(少額減価償却資産として30万円未満、あるいは一括償却資産の制度)に該当する資産を購入した場合、取得年度に一度に損金処理するか、3年間で均等償却する制度があります。これらの制度を活用することで税負担を調整しやすくなります。

1-3. 役員報酬や賞与の設計

中小企業の場合、オーナー経営者や役員に支払う役員報酬や役員賞与をどのように設定するかが、法人税の負担に影響を与えます。

  • 役員報酬を適正に設定する
    役員報酬は定期同額給与など税務上の要件を満たしていれば、法人の経費(損金)として計上できます。一方で、法人税の圧縮を意図して不当に高額にしてしまうと、税務調査時に指摘されるリスクがあります。社会保険料の負担増とのバランスも考慮すべきです。
  • 役員賞与(事前確定届出給与)の活用
    事前確定届出給与として所定の手続きを行い、事前に役員賞与の支給額と支給時期を税務署に届け出ておけば、損金算入が認められます。予算や利益予測を行った上で計画的に設定することで、法人税課税所得を適切に抑えることが可能です。

2. 法人税の特別措置・税額控除の活用

2-1. 研究開発税制(試験研究費の税額控除)

技術開発や製品開発などに関わる費用は、法人税法上、一定の要件を満たせば「試験研究費の税額控除」として、法人税額の一部を直接控除できる制度があります。

  • 対象となる活動や業種の確認
    研究開発税制を活用するには、自社の取り組みが「新技術の研究開発」に当たるか、または税制要件を満たすかどうかを慎重に確認する必要があります。対象となる活動の範囲は法令で細かく規定されているため、顧問税理士などとよく相談してください。
  • 試験研究費の計上と書類整備
    研究テーマごとに明確に費用を区分し、研究内容や期間、関与した人件費などのエビデンスを整備することが求められます。適切に書類を残しておくことで、税務調査時のリスクも減らすことができます。

2-2. 中小企業投資促進税制

中小企業が対象となる投資促進税制では、生産設備など一定の設備投資を行った場合に、特別償却や税額控除が認められる場合があります。これにより、通常の減価償却よりも早期に費用化できたり、法人税そのものを一定割合控除できたりします。

  • 対象となる設備の要件
    省エネ性や生産性向上に寄与すると認められた設備など、対象となる設備が法令上細かく決められています。要件を満たさなければ適用が受けられないため、投資判断の際には設備の仕様や性能を必ず確認しましょう。
  • 適用期限と事前届出
    中小企業投資促進税制などの特別措置には適用期限が定められている場合が多く、また事前に経済産業局等に計画書を提出するなどの手続きが必要なこともあります。適用できるタイミングに合わせて設備投資を計画的に行うとよいでしょう。

2-3. 地域再生・地域活性化関連の特別措置

日本国内の特定の地域に事業所を構えたり、雇用を創出したりすることで、地方税の減免や税額控除などの優遇措置が受けられる場合があります。自治体ごとの補助金制度と合わせて活用することで、法人税の負担軽減につながることがあります。


3. 組織再編・グループ内取引の活用

3-1. グループ法人税制

グループ会社を複数持つ場合、「連結納税制度」や「完全支配関係があるグループ法人税制」などを活用することで、グループ全体での税負担を調整できる可能性があります。

  • 連結納税制度
    親会社と子会社(要件あり)が連結決算を組み、その連結所得に対して法人税を計算する制度です。ある会社が赤字、別の会社が黒字であれば、グループ全体として法人税を圧縮できるメリットがあります。ただし、導入・維持にあたっての手続きや計算方法は複雑化するため、経理負担が増大する点には注意が必要です。
  • 完全支配関係があるグループ法人の取扱い
    一定要件を満たす親子会社間で、資産の譲渡を行った場合に譲渡損益が繰り延べられる特例などが設けられています。グループ内の事業再編において有効活用することで税負担のタイミングをコントロールできる場合があります。

3-2. 持株会社(ホールディングス)の活用

持株会社(ホールディングカンパニー)を設立してグループを再編する方法も、法人税負担を最適化する一手段として考えられます。事業会社ごとに役割を明確化し、経理や人事など管理業務を集約して効率化を図るケースもあります。ただし、単に税負担を下げるためだけの持株会社設立は、実務コストやコンプライアンスリスクを踏まえないと逆に負担が増える可能性もあるため、慎重な検討が必要です。


4. 国際税務の視点

4-1. 海外子会社・支店の活用と移転価格税制

日本国内の法人税率よりも低い税率国・地域に子会社を設立し、そこで利益を計上することで全体の実効税率を下げる方法は国際的にも広く活用されています。しかし、日本の税法では移転価格税制や過少資本税制、タックスヘイブン対策税制(CFC税制)が整備されており、不当に海外子会社に利益を移転しようとすると、課税が行われたり、日本での課税に組み戻されるリスクが高まります。

  • 移転価格税制の遵守
    親会社と海外子会社の間で行われる取引(製品販売やライセンス料、役務提供など)については、第三者同士の取引価格(独立企業間価格)を基準に、適正な価格を設定しなければなりません。過度に低い価格で子会社に商品を販売したり、高いロイヤリティを子会社に支払ったりすると、移転価格調整を受けるリスクがあります。
  • CFC(タックスヘイブン対策)税制への対応
    税率の低い海外子会社については、日本のCFC税制の対象となり得る場合があります。一定の要件を満たさない限り、子会社の所得が日本親会社に合算され、日本で課税されることがあります。単なる税率差を狙うだけではなく、実質的な事業活動の実態を踏まえた拠点設立が重要です。

4-2. ロイヤリティ・サービスフィーの受取・支払

日本法人が持つ知的財産権(商標や特許など)を海外子会社で活用する場合、ロイヤリティを適正な金額で受け取ることで、国内法人の売上を増やす方法があります。逆に、海外子会社から支払うロイヤリティを高く設定すれば日本法人の利益が減るため、一時的に法人税の圧縮が可能ですが、前述の移転価格税制やCFC税制をクリアしなければ、後から追徴課税を受けるリスクがあります。
グローバル展開を前提とした法人税対策を検討する場合は、国際税務に詳しい専門家のサポートが欠かせません。


5. 赤字繰越(欠損金繰越)の活用

企業が赤字(欠損金)を計上した場合、一定の期間、将来の黒字(利益)と相殺して税負担を軽減できる「繰越控除」が認められています。赤字を出している中小企業にとっては、将来の事業計画を踏まえて繰越制度を最大限活用できるようにしておくとよいでしょう。

  • 繰越控除の期間
    過去には7年、9年、10年などと繰越期間が段階的に延長されてきました。現在は10年程度が基本ですが、改正により変動の可能性があるため最新情報を確認してください。
  • 確定申告書の適正な提出・欠損金明細書の添付
    繰越欠損金を活用するには、欠損金が生じた事業年度の確定申告書類を適切に提出し、必要な明細書を添付していることが条件となります。提出漏れや書類不備があると、繰越が認められないケースがあるため要注意です。

6. 節税とキャッシュフローのバランス

法人税の節税を考える上で、単純に「利益を減らす」ためだけに無駄な経費を増やすのは本末転倒になりかねません。経費を使えばキャッシュは減少します。必要のない出費を繰り返してしまうと、たとえ一時的に法人税を減らせても、会社としての財務健全性が損なわれます。したがって、節税策は「キャッシュフロー(お金の流れ)の確保」「将来の利益創出」の視点とバランスを取りながら行う必要があります。

6-1. 設備投資・人材投資との連動

生産性向上や新規事業への展開など、将来的に収益に寄与する投資を行う過程で、結果的に節税措置(特別償却や税額控除など)が受けられるのであれば、財務的にも効果的です。「投資による成長」と「税負担の軽減」の両面を考慮して計画を立てると、中長期的に見て会社の利益を最大化しやすくなります。

6-2. 融資や補助金の活用

節税だけでなく、事業拡大や運転資金確保の観点から、日本政策金融公庫や信用保証協会、地方自治体などの制度融資や補助金・助成金を活用してキャッシュフローを潤沢にすることも大切です。補助金によって設備投資負担を減らしながら、その設備投資に係る税制優遇(投資促進税制など)を受けることも可能です。


7. 税務リスクマネジメントと専門家の活用

7-1. 税務調査のリスク軽減

法人税の申告書類には多くの別表・添付資料が必要となり、また細かい税法解釈が伴います。経費計上の正否、減価償却の方法、特別措置や税額控除の適用要件などは企業ごとに異なるため、書類不備や解釈ミスによって後日税務署から指摘を受け、追徴税や重加算税が科されるリスクがあります。

  • 帳簿書類の整備
    法人税の節税を行うには、会計処理を正確に行うことが大前提です。経費の根拠となる領収書や契約書、試験研究費の計算根拠、減価償却資産の固定資産台帳など、証拠書類を丁寧に保管・整備しておきましょう。
  • 税法改正情報の収集
    税制改正は毎年行われるのが常です。特に中小企業向けの特例措置や投資促進税制などは、期間限定であることが多いので、いつどんな改正が行われるか常にアンテナを張り、必要に応じて税理士・会計士のサポートを受けることが有益です。

7-2. 税理士・公認会計士との連携

自社の経理部門だけでは把握しにくい税務スキームや特例を活用するためには、税理士・公認会計士などの専門家に相談することがおすすめです。日常の会計処理から税務申告書の作成、節税プランの提案、税務調査対応まで一貫してサポートしてもらうことで、リスクを最小限に抑えつつ、会社にあった最適な方法を選択できる可能性が高まります。


8. まとめ

法人税の節税は、単に「税金を少なくする」という短期的な発想だけではなく、会社の経営計画や成長戦略、資金繰り、投資計画などとしっかり連動させることが肝要です。国や自治体からの助成・優遇措置を効果的に使いながら、経費処理や減価償却、投資計画を立てることで、中長期的にも健全な財務体質を保つことができます。

また、国際的な事業展開やグループ会社との取引が絡む場合には、移転価格税制やタックスヘイブン対策税制などに対応した、より専門性の高い知識と入念な準備が求められます。
総じて、法人税の節税には「合法的にルールを遵守する」ことが原則です。不正や過度なグレーゾーンを狙うようなスキームは、後々税務署からの追徴課税やペナルティリスクが大きく、企業の信用を損なう可能性があります。正しい知識と専門家の支援を活用しながら、適切かつ計画的に実施することが重要です。


最後に

  • 制度の変更や税法改正に注意
    毎年変わる税制情報を見落とすと、大きな損失に繋がることがあります。必ず最新の情報を確認してください。
  • 専門家との連携を欠かさない
    節税スキームの組成や適用要件の判断など、税理士や公認会計士の知見を得ることでリスクを減らせます。
  • 本質的な経営戦略とリンクさせる
    投資や事業再編など、節税策が企業の成長と矛盾しないように検討し、長期的視点での意思決定を行いましょう。

上記の内容はあくまで一般的な情報提供であり、具体的な状況は企業ごとに異なります。実際に法人税の節税対策を導入する際には、必ず顧問税理士や公認会計士、弁護士などの専門家にご相談いただくことを強くおすすめいたします。